創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて

海に焦がれて~1000チャレ19

「それで、けんごくんはこれからどうするの」 アキから聞いた話は、大事なところがすっぽりと抜け落ちていて、これだけでは何があったのか、浩一がどうしたいのか、まではわからない。「その空白の三年間。それを突き止める」 浩一が記憶が無いと言った三年…

海に焦がれて~1000チャレ18

後で聞いたところによると、その日は大潮に当たる上に、遥か彼方の海上を台風が通っていて、天気はいいのに波はずいぶん高かったらしい。遊びに夢中だった三人は、いつもと違う海の様子にもまったく無頓着だった。 だから、その瞬間、何が起こったのか、すぐ…

海に焦がれて~1000チャレ17

いくら大人たちがたしなめても、好奇心旺盛な子どもたちは、何度も何度もそこに足を運ぶ。 心配した親たちは、眉唾ものの伝説を話し始める。あの岩場から海に落ちれば、竜宮城に連れ去られて二度と戻って来られなくなる、と。ただ、そう口にする大人たちは、…

海に焦がれて~1000チャレ16

浩一、アキ、それから、茂。小学五年生の夏。 その頃、三人のリーダー的存在は、浩一だった。何をするにもまず先頭に立ち、考える前に飛び出していって、アキと茂はそのあとを必死で追いかけるはめになった。 // 「はぁ~?」 アキの言葉を遮って、健吾は頓…

海に焦がれて~1000チャレ15

見つめた浩一の瞳の中には何も映っていなかった。この部屋も、外も景色も、目の前にいる健吾の姿でさえ、その目は現実にあるものは何も映していない。ただゾッとするほどの闇が広がっていて、勢い込んで口火を切った健吾はその勢いを急速に失ってしまった。…

海に焦がれて~1000チャレ14

晩御飯を食べ終わった頃には、周囲は宿の外はすっかり真っ暗になっていた。 夕飯には、広間で地元で採れた海鮮に舌鼓を打った。そこには、浩一の幼なじみの茂が採った魚も混じっているのかもしれないが、茂の母親の女将は海水浴シーズンでごった返す広間と厨…

海に焦がれて~1000チャレ13

秀和学園を進学先に選んだのは、単純にいつもの連中とつるむのに飽きたからだった。 自分と同じで明るくてチャラくて、軽く彼女を作ろうとして失敗して、でも気軽にしゃべる女友達はいっぱいいて。中学の頃、健吾の周りにいるのは、そんな連中ばかりだった。…

海に焦がれて~1000チャレ12

結局、今日は解散ということになった。健吾は浩一とともに宿に行き──ここも浩一の幼なじみのうちが経営しているらしい。世間が狭すぎる町というのも考えものだ──アキは一人、家に戻っていった。あの女、美海は、最近浜で倒れているのを近所の人が見つけて保…

海に焦がれて~1000チャレ11

女は何かを考えるように顎に手を当てて首をかしげた。眉間に小さな皺が寄る。「落ちて、溺れた……じゃあ、あそこはやっぱりただの海だったのね」 ぽつり、と残念そうに女が呟く。「ただの海って、海は海だろ? さっき聞いた竜宮伝説ってやつが関係すんの?」 …

海に焦がれて~1000チャレ10

健吾が助けた女は、浩一がおぶって救護室まで運んだ。慣れない人を抱きかかえながらの泳ぎをしたせいか、健吾は疲れきって付添人用の椅子でぐったりしている。救護担当のおばちゃんによれば、命に別状はないし、目が覚めたら水を飲ませて、しばらく休ませる…

海に焦がれて~1000チャレ9

今日から再開。ルールはその1を参照。 ------------------------------------------------- 岩場の方に近づいていくと、思った以上に波が強くて、いくら水を掻いても全然前に進まない。海水浴場の遊泳ゾーンから離れると、こんなにも違うものだとは知らなか…

海に焦がれて~1000チャレ8

気づいたときには、浩一が真っ赤なシロップに染まったかき氷を食べ終わり、緑色にまで手を出した時だった。なかなかの好感触を受けることが多くて、つい夢中になって女の子に声をかけ続けていた。 夏の海はいい。 健吾はしみじみそう思う。 その暑さでくらく…

海に焦がれて~1000チャレ7

アキと二人並んで座り、無言でかき氷をつつく。そうしていると、十年前のことが思い出されてくる。浩一はいまと同じくイチゴ味。アキはレモン味。それから、メロン味を手にしていたのは、もう一人の幼なじみ、鮫島茂だった。 ひょろっとした痩せ型で、男子小…

海に焦がれて~1000チャレ6

浜辺に上がり、アキの店の焼きそばをすすっている間も、浩一はなんだかそわそわして落ち着かない様子を見せていた。貧乏揺すりして、周囲を警戒しながら箸を動かしているかと思えば、海の遠い場所を見つめて、完全に動きが停止していることもある。健吾が焼…

海に焦がれて~1000チャレ5

浩一の様子がおかしい。 足がつくかつかないかのギリギリの場所に浮かびながら、健吾はさらに深い場所で一心不乱に泳ぐ浩一を見つめていた。 確かに、海水浴に来るのはそもそも面倒くさそうだった。それを無理やり連れてきたのは健吾であって、その気がなさ…

海に焦がれて~1000チャレ4

こーちゃんが、帰ってきた。 アキは嬉しさのあまり、顔がニヤけるのを止められなかった。 三年半ぶりに会った幼なじみの浩一は、すっかり大人の男の人になっていた。背の高さはあまり変わらないけれど、子供っぽさを残していた顔はすっかり精悍な表情になり…

海に焦がれて〜1000チャレ3

浩一が振り返ると、そこにはTシャツ、ショートパンツの上に海の家の名前が書かれたエプロンをつけた女が立っていた。驚きにそのまん丸の瞳をさらに丸くして、買い出し帰りなのか、両手にはスーパーのビニール袋を握りしめている。 「アキ……」 「やっぱり、…

海に焦がれて〜1000チャレ2

「宿も取ってあるし、車も借りれることになってるからさぁ。予定空けといてよ。てか、空いてるよな?」 そう言って、健吾は浩一の逃げ道をつぶす。そうでもしないと、のらりくらりと誘いを断ることは明白だった。さすがに付き合いが三年を越えて、その辺りは…

海に焦がれて〜1000チャレ1

前書き 毎日文章書くようにしたいな、ってことで、毎日1000文字以上の文章を書くチャンレンジ企画を今日からスタート。ルールはこちら↓ ・1000文字以上、書いたら成功。失敗しても途中までをアップ。書けなかった日も所感的なのはアップする ・1日は、起きて…