創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ5

 浩一の様子がおかしい。
 足がつくかつかないかのギリギリの場所に浮かびながら、健吾はさらに深い場所で一心不乱に泳ぐ浩一を見つめていた。
 確かに、海水浴に来るのはそもそも面倒くさそうだった。それを無理やり連れてきたのは健吾であって、その気がなさそうなのは端からだ。ただ、ここに着いてからずっと、焦っているような、戸惑っているような、自分でもそれが分からなくてもがいているようなそんな感じを受ける。
 今も何を思ったのか、唐突に泳いでくると言って海に入って、そのままずーっと海水浴場の遊泳エリアを示すロープのギリギリのところをクロールで泳ぎ続けている。
 アキがやってくるまでは他の女の子をナンパしていようと思った健吾も、様子のおかしい浩一を放っておけなくて、けれど、どうしたらいいのかも分からなくて、とりあえず、泳ぎ続ける浩一をただただ眺めている。健吾の方は足が付く場所にいて、体力的に余力を残しているから、もしものことがあっても、なんとか浩一を助けることくらいはできるだろう。
 それにしても、まさかこの海水浴場が浩一の地元だとは思ってもみなかった。実家通いの健吾と違って、寮住まいの友人たちは、長期休暇のたびに大きな荷物を抱えて実家のある遠方の地へ旅立っていった。浩一以外は。
 だから、浩一の実家はよっぽど遠くにあって帰るのが金銭的に厳しいのか、あまりにも田舎だから帰ったところで面白くもないのだろうと思っていた。それが、車でちょっと走れば辿り着ける、知る人ぞ知る海水浴場の近くだとは考えつかなかったのだ。
「幼なじみとの再会の様子を見るに、なーんかあるんだろうなぁ」
 ため息混じりに小声でつぶやけば、すぐ横を大きな浮き輪を抱えた子どもが不思議そうに泳ぎ去っていく。
 宿をキャンセルして、今夜帰路につく。というアイデアもないわけではないけれど、アキの喜びようを見ると、それはそれで悪い気がする。たぶん、浩一の帰りを待ちわびていた人がまだ何人もいるだろう。
「つっても、俺は部外者だしなぁ」
 どうしたものだと頭をガシガシかいたところで、妙案が浮かぶはずもない。
「ま、なるようになるか」
 考えたところでどうしようもないものは、どうしようもない。そう割り切れば、なんだか急に腹が減ってきた。
「おーーい! 浩一ぃぃいいい! 飯にするぞぉぉぉぉおお!」
 腹が減っては考えもまとまらない。
 ありったけの声で泳ぎ続ける浩一に呼びかけると、健吾の頭はもう昼ご飯のことでいっぱいになる。
 焼きそば、イカ焼き、フランクフルト。ラーメンがある店もあったな。
 迷えるほど選択肢があるのはいいことだ。どうせなら、アキの両親の店で買ってもいいかもしれない。
 しぶしぶといった様子の浩一が浜辺に向かっているのを横目に見つつ、健吾は海の家へと一直線に海の中を走り始めた。

 頭上では、ちょうど太陽が中天に差し掛かっていた。

 

(1190文字)

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なんか1話ずつまとめようとしている感が出てきたな。