創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ7

 アキと二人並んで座り、無言でかき氷をつつく。そうしていると、十年前のことが思い出されてくる。浩一はいまと同じくイチゴ味。アキはレモン味。それから、メロン味を手にしていたのは、もう一人の幼なじみ、鮫島茂だった。
 ひょろっとした痩せ型で、男子小学生にしては背が高く、浩一も当時は相当羨ましかった。背が高くて目立つのとは対照的に、性格は良く言えば温厚、悪く言えば気弱で、クラスのリーダー格の男子や、別の学校の奴らに目をつけられてオドオドしていたのが思い出される。
「そういや、茂、どうしてるんだ?」
 イチゴ味を平らげた浩一は、ずいぶん溶け始めたメロン味を手に、隣でブルーハワイをつついてるアキに尋ねた。
「お父さんの仕事、継ぐことにして、高校卒業してから、漁師修行してるよ」
「そっか、結局漁師になるのか」
 父親が漁師。母親が民宿の切り盛り。その二本足で鮫島家が家計を支えている話は、小学生の頃からよく耳にしていた。将来はどちらかの仕事を継ぐ。両方するにはさすがに手が足りない。でも、どちらにするか迷っている。
 小学校でよくある「将来の夢」の話になるたびに、茂はそう言って困ったように笑っていた。いつかはどちらかに決めないといけない。でも、今はまだ決められない、と。
「民宿は? 誰かに売るのか?」
「それは、奥さんがやるみたい」
「奥さん?」
「あれ? 招待状届かなかった? 茂、卒業してすぐに、近所の別の民宿の娘さんと結婚したんだよ」
 聞いてない。さすがに出席はしなくても、招待状が届いたのを覚えていないことはないはずだ。
 寝耳に水とはこのことだ。
 あんなにひ弱で頼りなさ気だった茂が、もう結婚して嫁をもらっているという事実は、浩一の胸を揺さぶるのに十分すぎた。
「確か、遥さんだったかな。民宿くらげさんところの。あそこ、お兄さんが二人いるから、遥さんは外に出さなきゃってなってて、そこへご近所の鮫島旅館の跡取りがって話になって、それからトントン拍子に話が進んで──でも、二人は昔から交流があって、元々仲もよかったみたい。恋人とか結婚とか考えたことなかったけれど、この人とならなんとかなりそう、って思ったんだってさ」
 まくしたてるように話すアキの表情は明るい。それだけ、茂と遥の仲は、アキの目にも睦まじく見えたのだろう。
「そう言えば、こうちゃん、今晩どうするの? 実家、じゃないのよね? さっきの様子からして」
 すっかり忘れていた。アキの言葉で、浩一はハッと気がついた。健吾に任せきりだったものだから、二泊三日とは聞いていたが、宿のことはまったく聞いていない。
「この近くだと、何も知らない人が順当に宿探ししたら、鮫島旅館か、民宿くらげだけど……」
 言いながら、アキが困ったように笑う。
「健吾が宿探したから俺は知らない。たぶん、どっちかなんだろうな」
 つまり、鮫島旅館だった場合、茂と、茂の奥さんと鉢合わせるのは避けられないんだろう。
 もはや今更だろうが、浩一は徐々に日帰りにしてしまいたい気分になってきていた。

(1248文字)

-------------------------------------------

今日で連続1週間。続くものである。