創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ8

 気づいたときには、浩一が真っ赤なシロップに染まったかき氷を食べ終わり、緑色にまで手を出した時だった。なかなかの好感触を受けることが多くて、つい夢中になって女の子に声をかけ続けていた。
 夏の海はいい。
 健吾はしみじみそう思う。
 その暑さでくらくらする脳みそに照りつける明るい太陽。自然と気持ちは開放的になり、初対面の男に声をかけられたって、多少印象がよければ連絡先を教える気になってしまう。
 すでに何人かの女性と連絡先を交換し、そのうち、家の近くでご飯でも行く予定だ。これは、海から帰ってからが勝負だ。
 が、本命の直近のイベントに付き合ってくれる相手が見つからない。明日はせっかくの花火大会だ。ぜひとも女性連れで参加したい。けれど、この海水浴場は都会からも近いというわけで、日帰り客が多く、今日はもう帰ってしまうという返事ばかりだった。
「こればっかりはしょーがないし、明日にかけるかねぇ」
 明日になれば、花火目当ての客ももう少し増えるだろう、と望みを託す。浩一はきっとアキと肩を並べることになるだろうから、余計に気合を入れて相手を探さなければ。
 確かにアキは美人、というか愛らしい顔立ちをしたステキな女性だ。熱烈アタックをかけたい気持ちはある。ただ、浩一とアキの様子を見ていると、健吾はどうもそんな気分になれなかった。二人の間に何があったのかはさっぱりわからない。けれど、何かがあったことだけは確かで、それがなければ、二人は恋人同士でもおかしくなさそうな空気感だった。
「さて、もうしばらく二人っきりにしておくとして、どうするかなぁ。大体女性のみグループには声かけちまったしなぁ」
 健吾がそうぼやきながら、海を眺めていると、遠くに見える岩場に女が立っているのに気がついた。
 いつからそこにいたのだろうか。
 太陽に輝くようなウェーブのかかった金髪が遠目にも美しい。スラっとした体格にボン・キュッ・ボンのグラマラスな肉体。思わず、健吾の喉が鳴る。
 まるで西洋人のモデルみたいだ。テレビの撮影か何かだろうか。ただ岩場に立っているだけなのに、絵になる姿だ。あんな女とお近づきになれたら、それはもう天にも昇る気持ちになるだろう。
 鼻の下が伸びるのが抑えられない。男ってのはこれだから単純だと言われるのだろうが、そんなことは関係なかった。遠い砂浜の上から、ぼんやりとその美しい姿を眺め続ける。浩一とアキを二人っきりにしておく間、彼女を眺めているのがいいかもしれない。
 健吾がそんなふうに思っていると、ふいに、女の体が傾き、そのまま、小さな飛沫を上げて、海に落ちていった。
「……えっ」
 一瞬まばたきをした間の出来事だった。
 遠い岩場から海に落ちた音など浜辺まで聞こえるはずもなく、もはや海は誰かが落ちたことなどお構いなしに小さな波を立てて動いている。
 もしかして、白昼夢でも見たのかと思ったが、あんなにはっきりした幻はありえない。
 はやる気持ちを抑えながら、健吾は急いで海に入ると、岩場へと足を蹴った。

(1243文字)

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明日は、月一企画のべらっくすのお題発表日なので、企画作品書き終わるまで、チャレンジはお休み。