創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ9

今日から再開。ルールはその1を参照。

-------------------------------------------------

 岩場の方に近づいていくと、思った以上に波が強くて、いくら水を掻いても全然前に進まない。海水浴場の遊泳ゾーンから離れると、こんなにも違うものだとは知らなかった。保安委員か何かに任せれば良かったかねぇ、と健吾は今更ながら、勢いだけでここまで泳いで来たことを後悔し始めていた。
 バチャバチャバチャ。
「え?」
 すぐ近くで波の跳ねる音が聞こえた。どう考えても、これは自然に起こるような音じゃない。
 健吾は、音の聞こえた方に急いで足を蹴る。
 浜辺からは見えない岩場の影、そちらに回りこむと、必死で腕を動かしている女の姿があった。どうやら泳げないらしい。
「おいっ、腕、むやみに、動かすなっ! おとなしく上向きに寝っ転がれ! とりあえず浮くから!」
 どっかのテレビ番組で知った素人知識を大声で叫んだが、女はパニックを起こしているのか、聞こえている様子がない。
「ちっ。泳げるとはいえ、俺は海のプロじゃあねぇぞ」
 海での人命救助がうまくいく自信なんてあるはずない。それどころか、自分も溺れて二次被害が起こってもおかしくない。だが、ここからもう一度浜辺に戻っていたら、確実にこの女は助からない。その確信だけで、健吾は動いた。
 暴れて腕を振り回している女に近づくと、後ろから腰に腕を回す。そして、
「おいっ、暴れんなっ! 助けてやるからっ!」
 パニック状態の女に届けと祈りながら、その耳元に大声で叫んだ。
 果たして、祈りは通じたのか、女の動きが止まる。そして、水中とはいえ、その体重がずしりと健吾の体にのしかかってきた。どうやら、助けてやる、という言葉に安心して気を失ったらしい。勘弁してくれ。
「まじかよ。この状態で浜まで泳げってことか」
 自分にしなだれかかる女。遠く見える浜辺。すでに体力は限界。こりゃ二次被害確定かねぇ。健吾がそう思った時だった。
「健吾!」
「けんごくん!」
 岩場の上から声が響く。見上げると、浩一とアキが岩場の上にいた。どうやら、地上から回り込む道があったらしい。
「浮き輪っ、とりあえず、使って」
「もう少し右の方に上に上がれるところがあるから、そっちへ」
 アキが海の家のレンタル商品であろう浮き輪を投げ、浩一が方向を指示する。さすが、地元民はなれてらっしゃる、なんて軽口を出す余裕もなく、健吾は言われたとおりに女と浮き輪を左右に抱えて、浩一の指示する方向にゆっくりと進む。体が疲れているからか、二人分の重みが邪魔をするのか、なかなか前に進めない。
 ほうほうの体で、岩場に上がれる場所にたどり着くと、女を引き上げて、自分は岩場の上にぐったりと体を投げ出した。しばらくは動けそうもなかった。

(1091文字)

-------------------------------------

超気になるところで終わっていたけれど、久々に戻ってくると筆がすぐには進まない。
早く女に喋らしたいよー。