創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ12

 結局、今日は解散ということになった。健吾は浩一とともに宿に行き──ここも浩一の幼なじみのうちが経営しているらしい。世間が狭すぎる町というのも考えものだ──アキは一人、家に戻っていった。あの女、美海は、最近浜で倒れているのを近所の人が見つけて保護したらしい。今はその人の元にお世話になっているとかで、そのうち迎えが来ることになった。
 あれから、浩一はなんだかボンヤリしているし、アキも塞ぎこんでいるし、美海は不安げな様子だし、健吾は心中穏やかではなかった。あんな暗い空気、葬式以外じゃあ五分と我慢できない。とはいえ、浩一にもアキにも美海にも、健吾にはわからないそれぞれの悩みがあって、いつものように軽く空気を変えることができなくなった。自分の取り柄は持ち前の明るさと口の達者さだけだと思っていたのに、それが今回はちっとも役に立たなかった。いや、役に立つ立たない以前に、軽口を叩くことすらできなかった。それほど、いろんな気持ちが混ぜ合わさった空気は、底なし沼の中に深く深く沈み込むような、そんな得体のしれなさを持っていた。
「はぁ……」
 自然と健吾の口からため息が漏れる。
「…………」
 いつもなら、何か一言ぐらい浩一から反応があるところだが、今日はまったくの無言だ。今もボンヤリと窓から海の方角を眺めている。その顔には何の表情も浮かんでいなくて、何を考えているのかさっぱりわからない。
 とりあえず宿まで引きずるように連れて来て、風呂に押し込み、海に濡れた体を洗わせて、今は晩御飯の支度を部屋で待っているところだ。どうやら、浩一の幼なじみ本人は漁師見習いをやっているらしく、健吾と浩一が宿に着いたときには、もう自宅スペースで眠ってしまっていた。そう話す幼なじみ──茂というらしい、の母親は残念そうな顔をしていたが、浩一はまったく気にしていなさそうだった。むしろ、どこかホッとしたような表情をしたのは、健吾の気のせいだっただろうか。
 わからない。
 わからないことだらけだ。
 健吾一人が蚊帳の外にいて、ちっとも中に入れてもらえない。
 昔、何かがあった。それは間違いない。あと、それに昼間聞いた竜宮伝説が関係しているのも。そして、その事件の中心人物は、間違いなく浩一だ。アキはその事件のことを気に病んでいる。
 でも、浩一が気にしているのは、海と、それから、あの記憶喪失の女、美海だ。美海はここにどう関わってくるのだろう。少なくとも浩一が高校に入って、この町を離れる前のことだから、少なくても三年以上は前の話になる。そこに記憶喪失の西洋人顔の女がどう関わる余地があるのか。
 やっぱり、考えてもわからない。
 部屋の畳にドサリと寝転がる。
 まだ、浩一は窓の外を眺めている。そういえば、こんな姿、高一の頃はよく見たなぁ。あれは、もしかして海を見ていたのかもしれない。遠く目には見えない海を。

(1185文字)

---------------------------------------------------------------

会話がグダグダだったから仕切りなおした。
そろそろ一回まとめようかな。