創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ13

 秀和学園を進学先に選んだのは、単純にいつもの連中とつるむのに飽きたからだった。
 自分と同じで明るくてチャラくて、軽く彼女を作ろうとして失敗して、でも気軽にしゃべる女友達はいっぱいいて。中学の頃、健吾の周りにいるのは、そんな連中ばかりだった。そいつらといるのが面白くないとか、不愉快とかそういうことは全然なくて、むしろ、今でも中学時代の友達といるのが一番気がラクなぐらいだ。それでも、そのまま高校行って、そこそこの頭あるやつは進学して、ないやつは働き始めて、ずーっと同じように気楽な連中と一緒にい続けるのは、なんだか人生もったいない、と思った。
 だから、実家から通える範囲で、自分の頭でもなんとか試験が合格できて、入学してしまえば、同級生はみんな真面目君、真面目ちゃんばかりになるだろうと、噂の秀和学園を選んだ。親に志望校を伝えた時は、それはもう驚かれたし、冗談だと思って中々信じてもらえなかったものだ。周りの奴らにも、意味がわからないとよく言われた。みんなと同じ、地元の高校に行けばいいのに、と。偏差値だって変わらないのに、と。特に、中の良かった女子達には、試験の直前まで引き止められていた。今思えば、仲良かった中の一人に、自分のことを好きな子でもいたのかもしれない。あの頃は、彼女欲しいと口では言いながら、女子の気持ちには無頓着だった。
 入学式の日に、教室に入った時に、当てが外れたのがわかった。試験や合格発表の時は真面目に見えた同級生たちは、蓋を開けてみれば、中学時代の連中と大して変わらなかった。中には本気の真面目君もいたけれど、そういう奴は健吾と仲良くなろうとはしなかった。
 結局、高校での宿題に追われながら、クラスメイトと馬鹿やって、そのまま附属の大学に進むだけかと思ったとき、ふと目に入ったのが、ボンヤリと窓の外を見つめる浩一の姿だった。
 近くの席の奴らが話しかけてもうわの空。「あぁ」とか「うん」とかしか言わない。真似して窓の外を眺めてみても、あるのは真っ青な春の空と、その下に広がるグラウンドだけで、何も特別なものをは見当たらない。
 けれど、浩一の目には何かが映っているようで、ただじっとそれを見つめ続けていた。見つめ続けていないとそれが消えてしまうと思っているみたいに。
「なぁ、お前は名前は? 俺は佐藤健吾」
 健吾は気づけば浩一の視線を遮るように、体を滑り込ませると、第一印象が良いと評判の笑顔でそう尋ねていた。
「こういち。渚浩一」
 浩一の視線が初めて、健吾を捉える。不思議そうにこちらを眺めるその瞳は、他の奴らと違って、深く深く闇の奥へと沈んでいくみたいで、その瞬間から目が離せなくなった。
 ただの偶然だったけれど、この出会いのために、この高校に来たんだと、健吾はそのとき、本気でそう感じていた。

(1159文字)

 

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ちらっと過去編。このままもうちょっと続けようか、一旦現代に戻るか。