創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ14

 晩御飯を食べ終わった頃には、周囲は宿の外はすっかり真っ暗になっていた。
 夕飯には、広間で地元で採れた海鮮に舌鼓を打った。そこには、浩一の幼なじみの茂が採った魚も混じっているのかもしれないが、茂の母親の女将は海水浴シーズンでごった返す広間と厨房を、忙しそうに行ったり来たりしていて、尋ねる間もなかった。時折、女将と違う若い女が給仕をしているのに気づいていたが、それが誰かと尋ねる隙すらなかった。
 あとで、浩一に聞くと、おそらく茂の嫁らしい。近くの民宿の娘さんだそうで、確かに給仕をする姿は手慣れたもので、嫁いできたばかりとは思えなかった。茂の妹か姉であれば、もう少し声をかけやすかったのだけれど、嫁となると話は別だ。人妻に気軽に話しかけられるほどの度胸を、健吾は持ち合わせていない。健吾自身が茂と知り合いであれば、なんやかやと疑問に思っていることを聞いたかもしれないが、そんな妄想じみたことを考えたところで時間の無駄だ。
 広間に行っている間にすっかり部屋は寝る準備が整えられていた。その布団の上に寝転がって、今もまだ海を見つめ続ける浩一を見上げる。
 浩一の目には何が映っているのだろうか。夜が訪れたこの町は、街灯の数もあまりなく、窓からは建物の影がボンヤリと映るだけでほとんど何も見えない。夕暮れ時には見えていた海も、水平線は闇の奥に沈み、空と一体化してしまっている。外に出て、街灯から離れれば、キレイな星空でも見えるのかもしれないが、部屋の中からでは、室内灯が邪魔をしていて、一面の真っ黒が広がるばかりだ。
 アキの連絡先をきちんと聞いておけばよかった。無言を貫く浩一よりも、何かを言いたくて、でもそれを胸のうちに押し込めている様子のアキのほうが事情を話してくれる可能性は高い。だが、バタバタと別れてしまったせいで、連絡先を聞いていなかったことをスッカリ忘れていた。遊ぶのはまた後でになったのと、浩一の幼なじみだから何かと連絡がつくだろうと、最初に会った時に聞かなかったのが失敗だった。
 気になる。気になる。気になって仕方がない。
 このままだと気になって眠れそうもない。
「なぁ、浩一」
 浩一に声をかけていたのは、無意識だった。
「教えろよ、なんかあったんだろ。お前に。ずーっと海見てんのも、それが関係してるんだろ。いやなんだよ、俺だけ蚊帳の外で、何が起きてんのかさっぱりわからんなくて、それでいて、どんよりとした空気の中にいなきゃならないって、なぁ、それ、どんなイジメだよ」
 健吾の口から思っていたことが全部こぼれていく。
「黙ってたら、何もわかんねーだろ。俺が助けになれるかなれないかも。何も」
 三年の付き合いはなんだったんだ、と健吾は思った。仲良くなれたと思っていた。こっちは親友が出来たつもりだった。何でもかんでも話した。でも、それは、こちらだけのことだったのだ。浩一はちっとも健吾と同じ気持ちにはなっていなかった。
 それが今日わかってしまって、悔しいやら情けないやら、もう心の中はぐちゃぐちゃだ。一度決壊してしまったせいで、もう止められない。
「なぁ、なんか言えよ、浩一っ!」
 健吾はいつの間にか起き上がって健吾の前に立つと、その胸ぐらに掴みかかっていた。
(1330文字)

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自分でもまさかの急展開。健吾は短気な行動派。