海に焦がれて~1000チャレ17
いくら大人たちがたしなめても、好奇心旺盛な子どもたちは、何度も何度もそこに足を運ぶ。
心配した親たちは、眉唾ものの伝説を話し始める。あの岩場から海に落ちれば、竜宮城に連れ去られて二度と戻って来られなくなる、と。ただ、そう口にする大人たちは、そこまで伝説を信じていなかったのは、子供たちもその口調から分かっていて、そんなことはお構いなしにあの岩場へ冒険に出かけていた。
ヤンチャな子であれば、年上の友人に連れられて、小学校どころか幼稚園の頃から岩場で遊んでいる子もいたけれど、浩一、アキ、茂の三人は、それまでは岩場を遊び場にしたことはなかった。子どもたちの中ではメジャーな遊び場に、わざわざ浩一が行こうとしなかったのが、大きな理由だ。
みんなが遊んでいる場所で遊ぶよりも、もっと面白いことを見つけよう、としていたのだと思う。あえて誰も行かない山の方に行ったり、普通の海水浴場で、みんながしないような遊びを作ったりしていた。
それが、その日突然、岩場に行こうと言い出した。
浩一が何を思ってそんな提案をしたのか、アキは聞き逃してしまった。そんなことを聞く間もなく、浩一は岩場へと疾走していって、それを追いかけるので精一杯だった。
脱兎のごとく岩場めがけて走る浩一、それに食らいつく茂。その二人にずいぶん遅れて、アキは岩場の入口に辿り着いた。二人はすでに岩場に下りて、浅瀬で魚を追いかけたり、岩をひっくり返して貝を探していた。夏休み中にも関わらず、その日は珍しいことに他の誰も岩場で遊んでいなかった。
その特等席な気分がいけなかったのだ。辿り着いたら、浩一に危ないよ、と怒って、海水浴場に戻るように言おう。別に海水浴場じゃなくたっていい。どこか別の場所に行こうって言おう。茂は浩一が諦めたら付いてきてくれるだろう。そう考えながら岩場まで走ってきたのに、自分たちだけの遊び場になっている岩場を見たら、アキもなんだかワクワクしてしまった。
「アキー! ちっちゃいカニもいるぞー!」
その手に小柄なカニを持ちながら、浩一がアキを呼ぶ。
「えー、見せて見せて!」
その瞬間には、アキの頭の中からは、すっかり考えていたことが忘れ去られてしまっていた。急いで浩一の元まで近づくと、その手の中のカニを見つめる。
「かわいいー」
「あっちの方にまだいっぱいいるから、アキもつかまえてみろよ」
「うん!」
周りの子たちから散々いろんな話を聞いていた岩場。危ないのはわかっていたけれど、砂浜から入る海とはまた違った顔を見せるのが、たまらなく面白くて、気がつけば三人とも夢中になっていた。
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明日どどーんと来ますよ。来ますよ。