創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ19

「それで、けんごくんはこれからどうするの」
 アキから聞いた話は、大事なところがすっぽりと抜け落ちていて、これだけでは何があったのか、浩一がどうしたいのか、まではわからない。
「その空白の三年間。それを突き止める」
 浩一が記憶が無いと言った三年間。その間に何があったのか。それを知らなければ、何もできない。動けない。
「でも、手がかりも何も……」
「手がかりはあるさ。あの女、美海だ」
 その名前を聞いた瞬間から、浩一は明らかに様子がおかしかった。
 少なくとも、高校から大学の今まで浩一と一緒にいて、健吾は美海という名前の女と関わった記憶はない。浩一に告白した女も浩一をフッた女も全部健吾の知り合いだ。その中に美海という名前はない。だとすると、中学までという話になるが、アキも美海という名前に心当たりはなさそうだ。
 だとすると、空白の三年間。鍵となるのは彼女しかありえない。
「明後日には帰る予定だし、できる範囲って感じだけどな。つーか、もう朝になりそうだから、明日か」
 今更ながら、眠気がやってくる。さすがに、あれだけ浜辺を駆けずり回るように、女の子に声をかけ続け、その後、岩場から落ちた美海を助けるために、結構な距離を泳いだのだから、疲れがないわけがない。
「一眠りしたら、とりあえず、あの美海って女に会ってくる。まぁ、あっちはあっちで記憶喪失らしいから、どこまでわかるかわかんねぇけど……て、アキちゃん」
 あくびを噛み殺しながら、健吾が話していると、アキは食い入るようにこちらを見つめていた。女の子とはいえ、迫力がある。
「ねえ、けんごくん。私もそれ、手伝わせて。もう、嫌なんだ。何もせずに後悔ばっかりするの」
 その顔には多大なる決意がこもっていて、健吾は一瞬たじろぐ。そこまでの思いなんてない。ただ、ぼんやりうだうだやってる浩一が気に入らないだけだ。それで本人が話す気がないっていうのなら、こちらが調べるしかないじゃないか。
「私、竜宮伝説をもう少し調べてみる」
 そう言うと、アキは一方的に連絡先を健吾に伝え、そのまま颯爽と走り去ってしまった。どうも、何かせずにはいられないらしい。
 やる気になったのは、いいことだ。女の子は沈んでいるよりも、前向きに笑っている方が断然いい。
「さて、俺は一眠りしてから頑張りますか」
 とりあえず、あと二日。やれることはやろう。
 そう言えば、浩一は部屋でどうしているだろうか。逃げるように飛び出してきたから、少し戻るのが気まずい。
「ま、そうも言っていられないか」
 戻ったら浩一が眠っていて、起きる頃には昨夜のことは水に流れている。それが最善のパターンだなぁ、と思いながら宿の部屋に戻る。
 部屋に入ると、そこはもぬけの殻で、浩一の姿はどこにもなかった。

(1135文字)

-------------------------------------------------------

一旦ここでキリ。土日月くらいで最初からの分をまとめます。何文字になるかなー。