創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

地上の星──のべらっくす第2回

「短編小説の集い」という企画に乗っかりまして、久々に一作書いてみました。
三人称小説推奨なのをネタ出し終わってから気づいて、
三人称にしようとしたけれど、味がなくなるので断念しました(汗)
テーマは「星」。第2回にして、初参加です。


【第2回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

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photo credit: Ybswo_1b via photopin (license)

 「地上の星

 はるか昔、頭上には「星」と呼ばれる光が無限の数ほど見えたらしい。らしいというのは、お父さんから聞いた話で、そのお父さんもボクのおじいちゃんから聞いた話で、おじいちゃんもそのまた、と長いときをかけて伝わってきた話だから、本当かどうかわからない。確かに、いまでも夜に空を見上げれば、かすかに光るものが見えるから、昔はあれがもっとたくさんあったってことなのかもしれない。
 今ではそれよりも四角い箱から漏れる光とか、のっぽな棒の先に光るものとか、そう言った目が痛くなるようなカラフルな輝きがたくさん地上に見える。お父さんによると、お父さんが子どもの頃よりも、さらに増えているらしい。あまり嬉しくない。たまにしか飛ばない夜の暗がりが薄くなるのはありがたいけれど、その光を見続けていると頭がくらくらしてくる。
 それなのに、旅立ちの日にお父さんから、ボクのお星様を見つけなさい、って言われたんだよね。
「ボクの」ってことは、ボクの特別な星ってことなんだろうけど。お空の星は遠すぎて、ボクのものって感じはしないし、町の明かりはボクのものになんてしたくない。ニンゲンさんは、どうしてあんなものが好きなんだろう。夜に見晴らしのいい場所を飛んでいると、ニンゲンさんが嬉しそうにあの明かりを見ているんだ。それも、たくさんのニンゲンさんが。まるで、ボクがアレを気に入らないことの方がおかしいみたい。
 でも、やっぱりボクは気に入らないな。あんなものを好きな気持ちがさっぱりわからないや。
 そろそろ寒くなってきて、ここを離れる日が近づいてきてるんだけど、やっぱり「ボクの」星は見つからない。町にはボクの嫌いな光が増えるばかりで、どうにも気に食わないし、お父さんの言葉なんて無視して、いい加減に南に渡ってしまおうと思ったんだ。
 今日を最後にしばらくお別れする町だから、普段は飛ばない夜の町をあっちへふらふらこっちへふらふらと彷徨っている。何度見たって空は暗くて、町は明るすぎる。お父さんが何を言っていたのかわからない。
 それでも何だか諦めきれなくて、ボクはいつもより長く空を飛んでいた。
 ふと町を見下ろすと、いつものギラギラした明かりとは違う光が目に入った。
 不思議に思って、高度を下げる。
 ぷーぷーと不思議な音も聞こえてきた。
 川べりの公園で、女の子が楽器を吹き鳴らしていた。
 んだけれど、聞くに堪えない音だ。
 スイーッと大きく空を旋回しながら聞き続けるんだけれど、ちっともキレイに音が響かない。
 しばらくぷー、ぷっぷぷーと、音を鳴らし続けた女の子は、諦めたように腕を下げると、吹くのをやめてしまった。その目には、かすかに涙の雫が見える。
 悔しいんだ。この子。上手く吹けないのが。
 ボクも上手く飛べるまではとっても悔しかった。
 だから、こんな夜中に一人で練習してるんだ。
 元気を出して。泣かないで。
 こんなに練習してるんだもの。きっと上手く吹けるようになるよ。
 そう願いを込めて、少女の頭上をくるくると旋回する。
 それに気づいたのかはわからないけれど、少女が空を見上げた。
 ただでさえ星の少なくなった空なのに、今日は曇ってその数個の光すら見えない。
 でも、何に納得したのか、女の子は再び楽器を手に取ると、大きく息を吸って、音を鳴らし始めた。
 やっぱりその音は不格好で、まだまだ全然なんだけれど、さっきよりもどこか元気があるように聞こえた。
 ボクにもあまり見られたくないだろうから、少女の涙が乾いたのを確認してからそこを飛び去る。
 なんだか、いい気分だった。
 胸の中がぽかぽかと暖かかった。
 こんなに暖かいなら、南にくだらなくても大丈夫かもしれない。なんて、さすがに無理だろうけど。
 ステキな出会いに気を良くしていたら、また、キラキラと輝くものが目に写った。
 今度はなんだろう。
 嫌な明かりが眩しいけれど、でも、別の光も見えるみたい。
 さっきとは違う意味で音がうるさい。
 がががが、ごごごご。耳障りな音が辺りに響いている。
 何人かの男の人が、手に機械を持って、地面に穴を開けている。みんなこんな遅いのに真剣な表情で、ちっとも眠そうじゃない。
 これって、お仕事なのかな。そういえば、似たような穴を掘る仕事を昼間にも山で見た気がする。
 くるくると上空を回っているけれど、ずいぶんと音がうるさい。すぐ近くで仕事をしているみんなはもっとうるさいんだろうな。でも、そんなことちっとも気にしてないみたい。
 もう暑さもやわらいできたのに、顔から汗が滴って、キラキラと輝いていた。
 汗ってくさいイメージしかなかったけど、真剣な人の汗は、こんなにもキレイなんだ。
 一瞬、音がやんで小休止。そうして、また再開。
 終わりない騒音の中、男の人達は黙々と作業を続けていた。
 邪魔しちゃ悪いからと、ボクはその場から離れる。
 夜の間中あのお仕事なのかな。倒れないといいのだけれど。
 ボクが心配しても仕方がないんだけれどね。
 そんなことを考えていたら、何かと目があった。
 気になって、飛ぶ速度を落とす。
 それから旋回。
 なんだろう……っと!
 急に黒猫がボクに向かって飛びかかってきた。
 危ない危ない。
 ボクは慌てて上空へと翼を向ける。
 猫に襲われるなんて初めてだ。
 見下ろすと、黒猫がまだこちらを見ている。ボクが少しでも高度を落とせば、また飛びかかってきそうだ。
 そんなにお腹が空いてるのかな。
 首輪もないし、結構痩せてるから、野良猫みたいだ。
 こちらを見る目はギラギラしていて、なんとしてでも生きてやるという気迫に満ちている。なんだか、見とれてしまうな。さすがに、ボクの体を差し出すわけにはいかないから、他をあたってもらうしかないんだけど。
 でも、むざむざやられることはなさそうだ。
 黒猫がもっと高い屋根の上に登って、襲い掛かってくる前に、いそいそとその場を去る。
 あの猫なら、きっと、来年戻ってきた時にもまだ生きているだろう。
 最後の夜って決めた今夜、なんだかステキな出会いをたくさん見つけた。
 お父さんの言っていた「星」ってこういうことなのかな。
 みんなそれぞれ、目に見えない輝きを放っていた。
 きっとこれは、はるか昔にあったという、満点の星空よりも美しいに違いない。

 だから──
 
 どうかボクが南に行っている間に、その光が消えませんように。
 来年戻ってきたときには、もっとたくさんの「星」を見つけられますように。

 ボクたちが必ず見てるから。
 だから、諦めないで。
 ずっと輝いていて。

 ボクたちが大好きな地上の星たち。

 

featuring. 中島みゆき地上の星

地上の星/ヘッドライト・テールライト

地上の星/ヘッドライト・テールライト