海に焦がれて~1000チャレ16
浩一、アキ、それから、茂。小学五年生の夏。
その頃、三人のリーダー的存在は、浩一だった。何をするにもまず先頭に立ち、考える前に飛び出していって、アキと茂はそのあとを必死で追いかけるはめになった。
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「はぁ~?」
アキの言葉を遮って、健吾は頓狂な声を上げる。
「今の姿見ると、想像つかないだろうけどね。こうちゃん、元々は大人も手がつけられないくらいのヤンチャな子だったんだよ。それが──」
「事件があって、変わった、と」
「そう」
本当に浩一は変わってしまった。あの頃、アキがその後姿を追いかけ続けた浩一は、あの夏に置き去りにされて、今は見る影もない。
思い出すだけで、一瞬涙がこぼれそうになったのを、アキはなんとか押しとどめた。
今は泣く時じゃない。あの幸せだった頃を思い出すたびに、涙が枯れるほど泣き続けた日々はもう終わりにしたのだ。泣いたって何も変わらないのだから。
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確か、あれは、海の様子が少し変わり始めるお盆の頃のことだった。いつのように海に繰り出した三人は、その日も浩一の提案に乗って、遊泳エリアの端まで泳ぐ競争を繰り返していた。
一番争いは浩一と茂。アキは二人の勝負を眺めるようにのんびりと後に続く。勝負は時折茂が勝つこともあったが、大抵は浩一の圧勝であった。特に、茂は体力がないせいか、後半戦になるにつれて、浩一が勝つ回数が目立って増えている。そのせいで浩一が勝負に飽きてきているのを、アキは感じていた。そろそろまた、突拍子もないアイデアが飛び出すぞ、と身構えていた。
「なぁ、アキ、しげる。あの岩場の方に行ってみないか」
身構えてはいたけれど、それでも、アキは心底驚いた。
「こういち、あそこは、あぶないからダメだって、耳にタコができるくらい言われてるじゃないか」
「だからだよ。あぶないってのは、スリルがあって、おもしろいってことだろ?」
茂が止めるのもお構い無く、浩一は浜辺へと軽快に泳いでいく。
海水浴場から見える岩場。その下の海は随分深く。突然岩場から落ちた時に危ないからと、この辺りの家では、どの親も子どもに絶対に近づいてはいけないと繰り返し教えていた場所だった。
海からだけでなく、砂浜を出て、道路沿いに歩いて行くと、陸からでも辿り着くことができる。親に怒られることを選んだ勇者たちによると、小さな蟹や貝がいたり、浅い水たまりのような場所には小魚が泳いでいるらしい。そういう子たちは、大体はクラスのヤンチャな男の子で、大抵、父親に怒られてゲンコツを食らった後があったものだった。
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