創作の箱庭

オリジナル小説置き場。企画物やら短編やら長編やら。ファンタジックなの多め?

海に焦がれて~1000チャレ4

 こーちゃんが、帰ってきた。
 アキは嬉しさのあまり、顔がニヤけるのを止められなかった。
 三年半ぶりに会った幼なじみの浩一は、すっかり大人の男の人になっていた。背の高さはあまり変わらないけれど、子供っぽさを残していた顔はすっかり精悍な表情になり、ひょろっとしていた体も細身ながらもガッチリとした体つきに変化している。水着姿だったせいか、その筋張った筋肉の様子をはっきりと目にしてしまって、アキは胸が高鳴るのを押さえきれない。
「なんだぁ、アキラ。いいことでもあったんかぁ?」
 お昼時を目前にして、これからジャンジャン売れるであろう焼きそばを作りながら、アキの父親が不思議そうに首を傾げる。その横で、冷蔵庫にドリンクを補充していた母は、一部始終を見ていたのか、アキ以上に口元をほころばせていた。
「浩一君、帰ってきたみたいですよ、あなた」
「浩一君って、渚さんとこの浩一君かいね。そりゃまた珍しい」
 心底驚いた様子で父が目を丸くする。本当に父の言うとおりだ、とアキは思った。
 寮のある県外の大学付属高校に入学してから、長期休暇中であろうと、一度たりとも帰ってこなかった浩一が、大学生になって初めて、地元に帰ってきたのだ。
 浩一が去って最初の夏休みに戻ってこなかったときから、もう、帰ってくるつもりはないのだと思っていた。浩一の両親はこちらに住み続けているとはいえ、浩一自身は戻ってこないのだと。
「よかったねぇ、アキちゃん」
 満面の笑みを浮かべる母に、曖昧な笑みを返す。なんだか、本気で喜んでいるのがバレているのが気恥ずかしい。それに、会ったときの浩一の顔を思い返せば、どうにも帰ってきたのは浩一自身の意志ではなく、仕方なしに連れてこられたような感じだった。隣にいた友人の健吾にでも無理矢理連れてこられたのだろうか。
 そうだとしても帰ってきたのには、変わりない。
「お父さん、今日、早めに上がってもいい? 手伝い終わったら、また会う約束してるの」
「今日は特別だかんな、昼のピークはけたら行ってこい」
 できれば、昼のピークが終わったぐらいには上がりたい。そう思っていると、父から望み通りのお許しの言葉が飛び出して、アキは思わず飛び上がって喜んだ。
 来年の冬には成人式だっていうのに、恥ずかしい。なんて母が小声でいさめる声が聞こえるが、そんなことには構っていられなかった。
 無理矢理連れてこられたのであれば、浩一はそんなに長居するつもりはないはずだ。ならば、チャンスは少ない。その少ない機会の中で、また帰ってきてくれるように話をつけなければ。
 そうでなくても、せめて、浩一の今の連絡先くらいは聞き出さないと。
 三年半も止まっていたアキの初恋は、今再び動き出そうとしていた。

 

(1127文字)

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アキサイド入れてみた。明日は再び健吾 or 浩一サイド